新・利他の経済学-11 The New Economics of Altruism

賃金 ― 労働市場

労働市場は、生産要素市場として、ミクロ経済学とマクロ経済学をつなげるものです。ケインズは、古典派経済学で暗黙に前提とされていた、労働の需給均衡の理論を明示的に提示しました。ケインズの天才は、ある意味では、古典派経済学の暗黙の前提を明らかにしたところにあります。ケインズ自身、それは「身に沁みついた慣習的な考え方からの懸命な逃避」(“a struggle of escape from havitual  modes of thought and expression.”であると述べています。

ケインズは、マクロ経済学の創始者とされますが、そのマクロ理論は、消費者(労働者)、企業のミクロ理論、特に労働の需給均衡、賃金の決定理論を明らかにすることによって構築されています。つまり、ケインズのマクロ理論はミクロ理論を基礎にしているのです。

◎ ケインズが 一般理論で 明示した 労働市場の 均衡条件* (経済学短歌)

* 古典派の公準

労働の需給均衡 古典派の公準

ケインズは「一般理論」のなかで、古典派の労働需給均衡理論について、2つの公準(古典派の公準)を明らかにします。第一公準は、労働需要の原理、第二公準は、労働供給の原理に関するものです。

古典派第一公準 (労働需要)

「賃金は労働の限界生産力に等しい」 (ケインズ「一般理論」) 

“The wage is equal to the marginal product of labour.” (‘General Theory’ J. M. Keynes)

この公準は企業の利潤最大化労働投入量の決定条件です。

労働の限界生産力=実質賃金、つまり、MPL = W/P

これは、労働の限界収入生産力=(名目)賃金 とあらわすこともできます。

(古典派第一公準)

◎ 労働の 需要は実質 賃金に 等し限界 生産力なり (経済学短歌)

◎ 労働の 限界生産(セーサン) 力等し 実質賃金 利潤最大 (経済学短歌)

◎ 労働の 限界収入(シューニュウ) 生産力(セーサンリョク) 等し賃金 利潤最大 (経済学短歌)

◎ 生産者 労働投入(ロードートーニュー)の 決定は 賃金ひとし 限界収入* (経済学短歌)

* 労働の限界収入生産力 Marginal revenue product of labor

古典派第二公準 (労働供給)

「ある労働量が雇用されるときの効用は、その労働量の限界不効用に等しい」 (ケインズ「一般理論」) 

“The utility of the wage when a given volume fo labour is employed is equal to the marginal disutility of that amount of employment”     (‘General Theory’ J. M. Keynes)

第二公準は、わかりにくいのですが、ケインズは、次のように説明を加えています。

「つまり、実質賃金は、その水準で労働することを受け入れるにちょうど十分なもの… 労働不効用とは、その賃金で労働することを差し控える諸々の(心理的)理由」

“That is to say, the real wage of an employed person is that which is just sufficient … to induce the volume of labour actually employed to be forthcoming; … Disutility must be here understood to cover every kind of reason which might lead a man, or a body of men, to withheld their labour rather than accept a wage which had to them a utility below a certain minimum.”

賃金は余暇(労働しないこと)の機会費用とみることができます。消費者(労働者)は、労働して得た所得で消費財を需要します(単純化のため使い切る)。つまり、消費者(労働者)の効用最大化は、消費財と余暇の二財モデルにおきかえることができます。さらに、余暇のウラ、余暇消費しなかった時間が労働供給になるわけです。

ポイントは4つ。第一に、名目賃金は余暇の価格(機会費用)であるということ。第二に、消費者(労働者)は労働供給して得た所得で消費財を需要するということ(単純化のため使い切る)、第三に、余暇と消費の2財モデルから、余暇と消費財の限界代替率が実質賃金と等しくなるところで、消費者(労働者)の効用最大化となること、第四に、余暇をとらなかった時間が労働供給と考えられるということ。このように、労働供給と実質賃金の決定は、労働のウラである余暇と消費財の二財モデルの消費者(労働者)の効用最大化問題におきかえることができます。

労働の限界不効用というコンセプトは難解です。ケインズもかならずしも明確に示しているとはいえません。賃金の二面性、賃金は労働の価格であると同時に、余暇の価格(機会費用)であるというところにその要因があるように思います。

ケインズは、労働の効用は、その雇用量に相当する労働の限界不効用としています。それは、労働することにより、つまり余暇をしないことによる限界不効用の総和と解されます。

余暇と消費財の限界効用均等、つまり限界代替率=余暇・消費財の価格比、予算線(制約)から効用最大化点、実質賃金と労働供給が決定される。つまり、

MUL/W=MUC/P

MUL/MUC = W/P 

左辺は、余暇と消費財の限界代替率となります。

MRSCL= -W/P

すなわち、余暇と消費財の限界代替率は、その価格比である実質賃金になります(代替関係にあるのでマイナスの符号が付きます)。

 

(古典派第二公準)

◎ 雇用さる 労働量の 効用は その労働量(ロードーリョウ)の 限界不効用(フコーヨー) (経済学短歌) 

◎ 労働の 限界不効用(ゲンカイフコーヨー) その意味は 余暇の限界 効用と知れ (経済学短歌)

◎ 賃金は 労働の対価と 知るも良し 余暇の価格と 知るもまた良し (経済学短歌)

◎ 賃金は 余暇の価格と 知るなれば 余暇せぬ時が 労働供給(ロウドウキョウキュー) (経済学短歌)

◎ 労働の 供給こそは 余暇・消費 二財モデルで 余暇の裏なり (経済学短歌)

◎ 賃金は 余暇の価格で 余暇・消費 価格比こそは 実質賃金 (経済学短歌)

◎ 労働の 供給こそは 余暇(レジャア)への 需要の裏と 知るもまたよし (経済学短歌)

労働供給曲線 Labor Supply Curve

労働の供給曲線について考えてみましょう。賃金が上昇すれば、労働供給は増大します。それが通常の状態です。しかし、ある水準を超えると、つまり所得が増えると、労働者(消費者)は、余暇を需要するようになるでしょう。余暇の需要が増えれば、労働の供給は減ることになります。

通常は、余暇は正常財で、その価格(機会費用)である賃金が上昇すれば、その需要は減ることになります。賃金が上がれば、所得を増やそうとして余暇を減らして労働するわけです。これは、代替効果が所得効果を上回るためです。

しかし、ある水準に達すると、余暇の需要が増大することになります。つまり、賃金の上昇による所得の増大により余暇をふやすことになるのです。余暇はギッフェン財(価格が上昇すると需要が増える財)の性格を帯びることになります。これは所得効果が代替効果を上回るためです。

以上を示したのが下図です。Li、Lii は余暇需要の裏である労働供給です。

◎ 労働の 供給曲線 形状は 右上がり後 左上がりに (経済学短歌)

◎ 労働の 供給こそは 消費者の 効用(コーヨー)最大化 行動(コードー)が決定す (経済学短歌)

非自発的失業

以上より、労働の需給均衡が成立するとみるのが古典派経済学の経済理論です。つまり、自発的失業のない完全雇用均衡が成立するわけです。

ケインズは、古典派経済学の労働の需給均衡理論をミクロ的に明らかにした上で、非自発的失業が存在する不完全雇用均衡が存在するマクロ理論、マクロ経済学を創始したといえます。人間行動、市場の特性、一見非合理ともみえる諸相をも考慮にいれた視点は、ある意味では行動経済学の先駆ともいえ、今もその革新性を失っていないと言えます。

By Kota Nakako

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