新・利他の経済学-12 The New Economics of Altruism

消費者の行動    Consumer Behavior

消費者は、自らの物質的、心理的満足度(効用)を高めるために行動します。消費者には財サービスの需要者であると同時に、生産要素としての労働の供給者(余暇の需要者)という二面性があります。企業理論と異なり、かたちに見えないものをあつかうのが消費者行動の理論です。もちろん価格がその心理的満足度を高めるために大きな役割をはたします。長期の消費者行動である貯蓄、投資については別章で述べたいと思います。

◎ 消費者は 物心ともの 満足を 高めるために 行動をする (経済学短歌) 

◎ 消費者に 二つの面が あると知れ 財の需要と 労働(ロードー)の供給 (経済学短歌)

消費者の効用(満足度)

消費者の効用(満足度)を扱うのが消費者行動の理論です。「効用」という言葉は難しいですが、これは心理的な「満足度」と考えればわかりやすいと思います。

また、最近では、政策目標としてGDP(国内総生産)の成長からGDW(Gross Demestic Wellbeing)という幸福度を高める、成長させる、という考え方も出てきています。これは、生産量という供給サイドの物質的側面から、満足度、幸福度を高めるという心理的側面が重要になってきているということがあります。その意味でも、消費者の効用(満足度)を扱う、消費者行動の理論は重要であるといえます。

労働市場の章でも述べていますが、消費者には財の需要者(購入者)であると同時に、生産要素としての労働の供給者(労働者)という側面があります。経済学では、これが別々に扱われています。それが、とっつきにくい要因のひとつになっています。しかし、このように、人間行動の多様な側面のひとつにフォーカスして、分析していくというのは実は、現実の経済を見る上で重要なことです。

わたしは証券アナリストとして、また投資家として、株価のバリュエーション(Valuation)をしますが、その際、重要なのは、複雑で多様な株価形成要因の中で、何が一番重要であるかを推定、判断して、分析、行動することであると思っています。その意味で、経済学のアプローチは、生活、事業、株式投資の実践にもつながることです。

消費者による財サービスの需要(消費)による効用(満足度)の最大化についてみます。ここでは、2財モデルを使います。消費者は、予算制約のなかで、自らの効用(満足度)を最大にすべくX財、Y財の2財を消費するというものです。このモデルは、労働供給量の決定、資本と労働の最適供給量の決定など他の分野にも応用されます。

無差別曲線 Indifference Curve

無差別曲線というのは、X財、Y財の2財を消費して、同一の効用(満足度)を得る消費量の組合せの軌跡をしめしたものです。ここでは、基礎となる2財モデルですが、数学的には行列をつかって複数財モデルにすることは可能です。しかし、基本的な発想は、2財モデルも複数財モデルも同じです。実践的なセンスを身に着けるには、シンプルなモデルで考えることがポイントです。その方が、直感にうったえ、実践にあたって応用が効くからです。経済学に数学は使うが、数学ではない、ということは、実践的、実学としての経済学には特にあてはまることです。

下図は、効用(満足度)の異なる3つの無差別曲線I(U1),  I(U2),  I(U3) を示しています。効用(満足度)Uは、U1<U2 <U3 で、原点から遠くなるほど効用(満足度)は高くなります。

◎ 2財間 同一効用 組み合わせ 軌跡を示す 無差別曲線 (経済学短歌)

限界代替率逓減の法則  The law of diminishing marginal rate of substitution

なお、無差別曲線の形状は、通常、原点に凸となります。これは、限界代替率逓減の法則がはたらくためです。つまり、X財の消費を追加的に増やせば増やすほど、犠牲にすべきY財の消費量の減少はすくなくなる、つまり限界代替率が逓減していきます。これは、無差別曲線の接線の傾きが減少していくことを意味しています。

 

◎ 限界の 代替率は 逓減す ゆえに曲線* 原点に凸 (経済学短歌)

* 無差別曲線 (indifference curve)

無差別曲線の北東にいくほど効用は高いわけですが、消費者は一方で、消費できる予算(所得)の制約を受けます。2財モデルの消費者の満足度(効用)の最大化は、この無差別曲線と予算線の接点で達成されます。

2財モデルでの消費者の予算線は、与えられた予算(所得)Mを、X財、Y財の消費にあてるすることを前提にしますので、X財の価格をPx、Y財の価格をPy、その消費量(需要量)をそれぞれX、Yとすると、M = PxX + PyY となります。予算線は、XY座標上では、横軸切片M/Px、縦軸切=M/Py、傾きが2財の価格比である-Py/Pxの直線で表すことになります。したがって、効用(満足度)最大化点は、E点となり、X財の消費量はX*、Y財の消費量はY*となります。

ここで重要なのは、無差別曲線上のE点の接線が、予算線に重なっているということです。そして、無差別曲線上の接線の傾きは、X財とY財の限界代替率MRSxy となっています。限界代替率というのはX財を追加的1単位追加したときに、同一効用(満足度)を維持するために、犠牲にする(減らす)Y財の消費量の比率を意味しています。それは無差別曲線の接線の傾きになるわけです。そしてその傾きは2財の価格比になります。

まとめると、効用(満足度)最大化条件は、予算制約M=PxX + PyY のもとで、MRSxy = -Px/Py となります。2財の限界代替率は価格比です(代替関係なので数式上は価格比にマイナスの記号が付きます)。

 

◎ 限界の 代替率が 2財間 価格比となり 効用(コウヨ-)最大 (経済学短歌)

◎ 予算線 無差別曲線 接点で 効用最大 条件満たす (経済学短歌)

◎ 消費者の 効用(コーヨー)最大化 限界の 代替率が 価格比になる (経済学短歌)

◎ 予算線 無差別曲線 接す点 (限界)代替率は 2財価格比 (経済学短歌)

需要の価格弾力性

つぎに、消費財の価格変化に対する需要の変化をあらわす、需要の価格弾力性についてみます。これは、ある財の価格の変化率に対する需要の変化率の割合です。

これは企業の価格戦略において重要になります。もっとも価格を動かせるということは、その財がある程度差別化されている、寡占的な状況にある等の理由で、企業がある程度の価格支配力をもっている、不完全競争市場にあるということです。

完全競争市場においては、企業は価格支配力をもっていませんので、市場価格で生産、販売を行います。仮に市場価格より高い価格に設定すれば需要量はゼロになります。市場価格より低い価格に設定すれば、瞬時に売り切れることになりますが、完全競争市場では、市場価格は限界費用に等しく粗利潤はゼロの状態ですから、その企業は損失をこうむり市場から撤退することになります。

需要の価格弾力性ε (エプシロン)は、次のように定義されます。

ε = – (ΔX/X*) / (ΔP/P*)  = ΔX/X ・ P/X

基本的に、需要の価格弾力性は、ΔXが追加的1単位の変化(微小単位)の場合には、微分的なアプローチになり需要曲線の接線の傾きに等しくなります。

◎ 需要への 価格変化の 影響を 価格弾力 性というなり (経済学短歌) 

◎ 需要への 価格弾力 性なるは 需要変化割る 価格の変化 (経済学短歌)

正常財  Normal goods

ここでは、価格がおよぼす影響の観点から、正常財、ギッフェン財の2財に絞って説明します。正常財は、価格が上昇すると需要が減る、価格が下落すると需要が増える、つまり、需要曲線が右下がりの最もスタンダードな財です。正常財は、所得が増えると、需要が増える財でもあります。(もともとの定義は後者) 

2財モデルで正常財を見てみましょう。

◎ 正常財(セイジョーザイ) 需要曲線 右下がり 価格下がると 需要が増える (経済学短歌)

◎ 正常財 価格が減ると 需要増え 所得増えると 需要が増える (経済学短歌)

ギッフェン財  Giffen goods

ギッフェン財というのは、価格が上がると需要が増える、という特殊な性質をもつ財です。需要曲線は右下がりになります。例として、財としての余暇が、その価格(機会費用)である賃金が、ある水準を超え上昇するとギッフェン財となるということがあげられます。

◎ ギッフェン財 変わり種だよ その需要 価格上がると 増大するよ (経済学短歌)

スルツキー分解 Slutsky disassembly

2財モデルで価格の変化が、需要に与える効果をみる手法にスルツキー分解があります。全体の効果を、代替効果と所得効果にわけるものです。

まず、正常財についてみます。X財を中心にみます。X財価格がPxからPx’に減少した時、効用最大化点はE点からE’点にシフトします。E点からT点へのシフトは代替効果、T点からE’点へのシフトは所得効果です。正常財では、代替効果も所得効果もX財需要を増やす方向にはたらいています。

次にギッフェン財をみます。ギッフェン財では、X財価格の減少で、X財需要が減少しています。その効果を分解すると、代替効果は、E点からF点へのシフトで、X財需要を増やす方向にはたらいています。しかし、所得効果が、F点からE’点へとシフトさせ、それ以上にX財需要を減らす方向にはたらいています。つまり、所得効果が代替効果をうちけし、さらに上まわっています。結果として、価格が減少すると需要が減少することになるのです。

◎ スルツキー 分解なるは 2段階 代替効果(コーカ)と 所得の効果 (経済学短歌) 

以上

by Kota Nakako

2021/12/5

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