新・利他の経済学-15 The New Economics of Altruism

独占

競争的市場では、価格メカニズムを通じて、資源をうまく振り分け(効率的な資源配分)、余剰、人々の豊かさを高めることを述べました。

「効率的な資源配分」というと難しいですが、要は、限りある、しかし多種多様な資源をうまく振り分け、財やサービスをできるだけ低いコストで生産し、それを欲しい人が購入できるようにし、また、その果実(所得)を、それぞれの役割の人に振り分けることです。ここで、人には企業も含まれ、経済学では経済主体とよびます。

市場経済は分権的であるといわれます。それは価格メカニズムを通じて、必要な人が、必要なときに、必要なことにフォーカスする、ということです。中央集権的な計画経済で、政府が資源配分を決めるやり方が、うまくいかなかったことは、20世紀の歴史が示しています。どこで、だれが、いつ、何を、なぜ、どうやって、どれだけ、生産、支出するのか(where, who, when, what, why, how, how much のいわゆる5W1H) を中央集権的に判断し、決定することは不可能です。

低いコストで生産し、生産力を高め、人々の多種多様なニーズにこたえ、社会全体の満足を増やすには、資本をうまく振り分けることが極めて重要になります。ですから、市場経済は、資本主義とほぼ同義として使われています。市場経済というのは、効率的な資源配分をおこなうメカニズム、システムです。今日の多種多様、複雑で、地球的広がりを持つ、経済社会において、それにかわるシステムはないといってよいでしょう。

「市場の失敗」というのは、個々人、企業が、自己の利益の最大化を目的に行動したとき、完全競争市場でもたらされるような余剰が生み出されないことをいいます。この余剰の減少分を、「死重損失(シジュウソンシツ)」(deadweight loss)とよびます。

◎ 自己利益 追求のみでは 効率を 損なうことが 市場の失敗 (経済学短歌)

◎ 独占や 外部経済 あるときは 市場の失敗 余剰損なう (経済学短歌) 

独占

市場の失敗としてまず独占市場について述べます。独占企業が自己の利益最大化を目的に行動したとします。その時の利益最大化条件は、MR=MC、つまり、限界収入=限界費用です。(下図)

限界収入曲線MRと限界費用曲線MCの交点はFになります。ここで、生産量X’が決まります。価格はF点ではなく、生産量X’のときの需要曲線DD上の点E’に対応するP’になります。

このとき、消費者余剰は△AP’E’、生産者余剰は□P’BF’E’、総余剰は□ABFE’なります。

 

完全競争市場の均衡条件である限界費用価格(P=MC)の場合をみます。均衡点はEになります。価格はP*、生産量はX*になります。つまり、独占の場合よりも価格は低くなり(P* < P’)、生産量は大きくなります(X* > X’)。

余剰分析をします。消費者余剰は△AP*E*、生産者余剰は△P*BE*、総余剰は△ABE*になります。つまり、総余剰が独占の場合より△E’FE*だけ大きくなります。しかし、注意すべきは、総余剰だけではありません。消費者余剰が△AP’E’から△AP*E*へと大きく増え、一方、生産者余剰が、□P’BFE’から△P*BE*へ大きく減少しています。

したがって、死重損失は△E’FE*となります。つまり、厚生の損失が生じ、ありうべき余剰、豊かさが損なわれています。経済本来のポテンシャル、豊かさが発揮されていないということになります。

完全競争市場で形成されるであろう均衡よりも、価格は高くなり(独占価格P’ > P*)、生産量は小さく(X’ < X*)なります。これが独占の弊害です。

◎ 独占で 企業の利潤 最大化 MR(エムアール)イコール(=) MC(エムシイ)としれ (経済学短歌)

◎ 独占は 価格が高く 生産量 小さくなって 消費者が損 (経済学短歌)

◎ 独占で 超過利潤が 発生す 死重損(シジュウソン)生じ 余剰そこなう (経済学短歌)

独占への処方せん

通常は、このような超過利潤が発生している場合は、その超過利潤をシグナルとして新規参入が生じます。つまり、競争メカニズムがはたらき超過利潤は解消されていきます。また、独占企業とはいえ、新規参入の脅威を感じているため、また消費者利益のため生産量をX’よりも拡大させるインセンティブが働きます。それが市場の競争メカニズムです。

しかし、なんらかの理由で参入障壁があり、新規参入が行われず、独占の弊害が解消されない場合があります。①かつての国有企業のように法律で守られている場合、②料金などが規制で守られている場合、③通信、電力、ガスなどのように巨額の初期投資(開業費)が必要な場合がその典型です。

このような場合は、新規参入をうながす政策、料金規制の撤廃(自由化)が必要です。具体例をあげると、①については、80年代後半からの通信、電力、航空の自由化 (NTTの分割、民営化、かつてKDDが独占していた国際通信の自由化、JALが独占していた国際航空の自由化、LCCの新規参入など)、②については、やはり80年代後半からの金融における金利の自由化、証券における手数料の自由化など、③は、通信、電力における相互接続の自由化などです。

◎ 超過的 利潤ある時 通常は 新規参入 競争が効く (経済学短歌)

◎ 独占は 政府規制で 守られて 新規参入 おこらず生ず (経済学短歌)

◎ 独占の 弊害除去は 自由化と 料金規制の 撤廃が大事 (経済学短歌)

費用逓減産業 - 自然独占

生産に規模の経済などがはたらき、(平均)費用逓減がはたらく産業では、自然独占が発生するといわれています。費用関数の一例を示しました。(下図)

 

 

生産効率の点ではよいのですが、この企業が、利潤最大化を目的に、MR=MC (限界収入=限界費用)にしたがって行動すると、E’点で価格P’と生産量X’が決まります。総余剰は、□AP*CE’になります。

これは、完全競争を想定した場合の均衡点E*点 (P=MC; 価格=限界費用)よりも、価格は高くなり(P’ > P*)、生産量は小さくなります(X’ < X*)。結果、△E’CE*の死重損失が発生します。(下図)

 

◎ 平均の 費用が逓減 する産業 自然独占 発生するなり (経済学短歌)

◎ 費用逓減(ヒヨーテーゲン) 産業なるは その特徴(トクチョー) 規模の経済 自然独占

◎ 独占は 価格が高く 生産が 小さく成りて 消費者に損 (経済学短歌)

自然独占への処方せん

自然独占の場合は、政府が介入して価格規制をすることが、標準的な経済学の教科書には書かれることになります。価格規制のあり方としては、平均費用にもとづくもの、限界費用にもとづくもの、があります。

平均費用にもとづく価格規制 (P=AC)は、P’ > P > P* となり、消費者余剰が増え、総余剰も増えることになりますが、なお死重損失が発生します。独占企業は、P=ACですので純利益はゼロになりますが、粗利益はプラスです。

限界費用にもとづく価格規制 (P=MC)は、P’ > P = P*)となり、総余剰が最大化されます。しかし、粗利益がゼロとなり、固定費分の純損失が発生します。 このような規制は、永続企業としてのインセンティブを削ぐことになり、イノベーションも生じなくなるでしょう。

政府が価格を直接に規制することは、基本的には避けるべきといえるでしょう。なぜならば価格は市場が決めるものだからです。それが市場経済の基本であり、生命線です。政府はまず競争促進から、新規参入をうながすことがよることが適切です。かつてのNTTも自然独占である、という見方がありました。しかし、価格規制ではなく、NTTのネットワーク開放、相互接続を可能にすることで競争が促進されました。

通信料金も下がったわけですが、もう一つ大きなことは、新規参入によりイノベーションが生じたことです。ソフトバンクの、NTTネットワークへの相互接続による電話線を利用したADSLによる新規参入で、安価な高速ブロードバンドが日本全国に普及しました。それがその後の光ファイバーによるFTH(Fiber To the Home: ファイバー・ツー・ザホーム)につながったわけです。この新規参入がなければ日本のブロードバンドは大幅に遅れていたことでしょう。

つまり、政府の介入のあり方としては、価格へ直接介入するのではなく、まず、新規参入を促進すべきでしょう。そのあり方に知恵と工夫が必要なわけです。

自然独占企業は利潤最大化行動をとるか?

自然独占企業が、MR=MCの利潤最大化行動をとるというのが、教科書的な解答です。しかし、超過利潤、独占的利潤が発生していることは、潜在的な新規参入、また政府規制の脅威を感じることになります。また、この場合の自然独占は、テクノロジーの革新がおきないことが前提になっています。超過利潤があることは、既存のテクノロジーにおいては、自然独占が維持されるにしても、それをブレークスルーするテクノロジーの開発(イノベーション)をうながします。

新規参入、規制の脅威、新たなテクノロジー開発への意欲を削ぐため、自然独占企業は、P=MC、つまり消費者余剰を最大化させる行動をとるインセンティブをもつことになります。

収穫逓増企業はP=MCで行動するという仮説

今日の巨大IT企業は、収穫逓増の法則(限界生産力逓増の法則)がはたらくビジネスモデルであるといわれています。これは、裏をかえせば(コストの面からみると)、費用逓減産業ということになります。IT産業は、顧客が顧客をよぶビジネスモデルです。つまり、その財サービスの利用者が増えれば増えるほど、その利用価値(満足度、効用)が高まります。これは、ネットワークの外部性ともよばれます。

短期的な利益よりも、顧客の獲得、重要の拡大を重視します。つまり、P=MCで行動し、生産量を増やし、消費者余剰を最大化させることが、MR=MCにより(独占的)超過利潤を発生させて、新規参入や、政府規制の脅威をまねくより、望ましいことになります。また、それがネットワークの外部性を効かせることにもなります。

P=MCで行動すると、固定費分の純損失を生じさせることになります。このMCを長期のMCとすると、賃金、資本コストが含まれます。すると経済的利潤はゼロになります。つまり、賃金、資本コストを含む生産コストをまかなう収益を生み出しているということです。

◎ 収穫の 逓増(テイゾー)はたらく ITは P=MC(ピー.イコール.エムシー) 行動仮説 (経済学短歌)

 

by Kota Nakako

2021/12/11

 

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