新・利他の経済学-18 The New Economics of Altruism

地代

地代といえば、19世紀の天才経済学者デービッド・リカードの名前が浮かびます。その差額地代論です。リカードは、国際貿易の比較優位説であまりにも有名ですが、限界概念を経済学に取り入れたという意味で、経済学に革命をもたらしたといえます。ですから、20世紀の天才経済学者ジョン・メイナード・ケインズが古典派経済学の総帥をデービッド・リカードとし、それをリカード派経済学(Ricardian Economics)と呼んだともいえます。

経済学史では、限界革命は、限界効用との関係で19世紀半ばから後半のジェヴォンズ(英)、メンガー(オーストリア)、ワルラス(仏)によってもたらされたとされます。しかし、近代経済学の分析手法である限界理論は、リカードがその差額地代論をもって経済学にもたらしたといえるのではないかと思います。但し、学門的位置づけは専門家にまかしたいと思います。

すくなくともリカードの「経済学および課税の原理」(‘The Principles of Economics and Taxation’)を読む限り、差額地代論は、まさに限界生産力の考え方にもとづいています。リカードは、おそらく経済学史上は、労働価値説にたっているということになるのでしょう。その意味では、マルクス経済学との関連で考えられることもあるようです。しかし、その視点は限界概念にもとづくもとであり、その意味で、微分法的アプローチを支柱とする近代経済学の祖師といえるのではないかと思います。リカードのすごさは、その分析手法が数学からもたらされたものではなく、実務家にして経済学者として、経験、実践、観察、洞察からもたらされたもの、ということです。「エコノミストは追加的一単位(限界)で考える」(“Economists think at the margin”)です。

リカードは、ケインズと同じく投資家でもありました。ナポレオン戦争での英(仏)国債の売買で巨額の利益を得て、証券ブローカー、公債引き受け人としての職を42歳(1814年)で引退。グロスター州のギャトコム・パークに邸宅を購入、地主となり、経済学研究に打ち込むと共に下院議員としても活動しました。

リカードの差額地代論 => 限界(生産力)均等化原理

経済学の古典を読むことで、偉大な経済学者の発想、視点を直(じか)に感じることができます。経済学の教科書はそのエッセンスを取り出して教えてくれます。それは経済学を学ぶ上で大きな助けです。しかし、一方、そこには何か抜け落ちているものがあります。その何かが実は経済学を実践するうえで極めて重要であると感じます。19世紀の経済学者の著作を今さら、と思われるかもしれません。しかし、わたしは、原典を読んで、はじめて経済学を実践することができるようになった気がします。それは、おそらく、視点、直感といったものでしょう。リカードは、その主著「経済学および課税の原理」の序で地代について述べています。

「地代の原理についての正しい認識がなければ、富の蓄積が、利潤や賃金へ及ぼす影響や、税金の地主、資本家、労働者への影響を正しく理解することは不可能である。特に生産物が土地から直接に生産される場合にそのことが言える。アダム・スミスや他の有能と思われる経済学者等は、地代の原理を正しく理解していない。また、地代の本質を徹底的に理解してはじめて知ることができる重要な真実を見逃している。」

“…the true doctrine of rent; without a knowledge of which it is impossible to understand the effect of the progress of wealth on profits and wages, or to race satisfactorily the influence of taxation on different classes of the community; particularly when the commodities taxed are the productions immediately derived from the surface of the earth. Adam Smith, and other able writers to whom I have alluded, not having viewed correctly the principles of rent, have, it appears to me, overlooked many important truths, which can only be discovered after the subject of rent is thoroughly understood.”

わたしはリカードの差額地代論を下図のようにとらえています。

リカードの差額地代論は、土地の等級から生ずる限界生産力の格差から生ずると解することができます。リカードは「限界」(marginal)という言葉は使っていません。しかし、その視点は、限界的生産力です。土地の供給は所与です。この土地への需要が増加するにつれ、土地の等級(限界生産力の格差)にしたがって、差額地代が発生します。

これは、次のように解釈することができるでと思います。(人口の増加に伴って)土地に稀少性が生じ、1等級、2等級、3等級、4等級の土地が耕作されるようになります。1等級、2等級、3等級の土地の限界生産力をMP1、MP2、MP3とし、地代をr1、r2、r3とします。限界均等化原理 (equimarginal principle) より、MP1/r1 = MP2/r2 = MP3/r3となります。MP1 > MP2 > MPより、r1 > r2 > r3 になります。

これは、MP1/MP2 = r1/r2、MP2/MP3 =r2/r3という形で説明することができます。つまり、1等級の土地の限界生産力と2等級の土地の限界生産力の比(限界代替率MRS1,2)は、1等級の土地の地代と2等級の土地の地代の比に等しくなります。

つまり、リカードの言う差額地代論は、限界均等化原理 (equimarginal principle) をあらわしています。「限界革命の前にリカードがいた」(Before ‘marginal revolution’, there was Ricardo.) は言いすぎでしょうか。

リカードは、地代について次のように説明します。

「もし、すべての土地が同じ特性をもっており、無限に供給され、その質に差異が無いとすれば、土地の利用に対する対価は発生しない。土地の供給が無限でなく、その質に差異が生じ、人口の増加により、劣位の土地が耕作されるようになったときに、初めて地代は発生することになる。社会の発展により、第2等の土地が耕作されるようになった時、地代は直ちに、第1等の土地に発生することになる。そして、地代の額は、これら2つの等級の土地の質の違いに依存することになる。

第3等の土地が耕作されるようになったとき、直ちに第2等の土地に地代が発生する。そして、第2等の土地の地代は、これら2つの等級の生産力の違いによって決定されるのである。同時に、第1等の土地の地代が上昇することになる。第1等の土地の地代は、第2等の土地の地代に対して、資本と労働を所与として、その生産力が高い分だけ、上回ることになる。人口の増加に伴い、食料の供給量を高めるため、より劣等な土地の耕作が必要になるに従って、それより優位な等級の土地に地代が高くなるのである。」

“If all land had the same properties, if it were unlimited in quantity, and uniform in quality,no charge could be made for its use, unless where it possessed peculiar advanges of situation. It is only, then, because land is not unlimited in quantity and uniform in quality, and because, in the progress of population, land of an inferior quality, or less advantageously situated, is called into cultivation, that rent is ever paid for the use of it. When,in the progress of society, land of the second degree of fertility is taken in cultivation, rent immediately commences on that of the first quality, and the amount of that rent will depend on the difference in the quality of these two portions of land.”

“When land of the third quality is taken into cultivation, rent immediately commences on the second, and it is regulated as before by the difference in their productive powers. At the same time, the rent of the first quality will rise, for that must always be above the rent of the second by the difference between the produce which they yield with a given quantity of capital and labor. With every step in the progress of population, which shall oblige a country to have recourse to land of a worse quality, to enable it to raise its supply of food, rent, on all the more fertile land, will rise.”

土地に稀少性が生じた時に地代が発生する

ここで一つ注意が必要なのは、土地に稀少性が生じていないときは地代は発生しないということです。つまり、需要が増え、2等級の土地が耕作されたとき、はじめて地代が発生するということです。リカードは次のように言います。

「国家の初期の段階においては、有り余る豊かで肥沃な土地があるであろう。そして、その僅かな人口を養うために必要な土地は、国土のほんの1部である。僅かな資本でその土地を耕すことができるわけで、その場合には地代は生じないだろう。というのも、利用していない土地が有り余るほどあるので、その土地の利用に対して地代を払う人はいないだろう。つまり、土地の利用は、耕作しようとする人の自由である。

この状況においては、空気や水に対価が無いように、需給原則に従って、地代は発生しない。・・・」」 

“On the first settling of a country in which there is an abundance of rich and fertile land, a very small proportion of which is required to be cultivated for the support of the actual population, or indeed can be cultivated with the capital which the population can command, there will be no rent; for no one would pay for the use of land when there was an abundant quantity not yet appropriated, and, therefore, at the disposal of whosoever might choose to cultivate it.

On the common principles of supply and demand, no rent could be paid for such land, for the reason stated why nothing is given for the use of air and water, or for any other of the gifts of nature which exist in boundless quantity. With a given quantity of materials, and with the assistance of the pressure of the atmosphere, and the elasticity of steam, engines may perform work, and abridge human labour to a very great extent; but no charge is made for the use of these natural aids, because they are inexhaussstible and at every man’s disposal. In the same manner, the brewer, the distiller, the dyer, make incessant use of the air and water for the production of their commodities; but as the supply is boundless, they bear no price.”

◎ リカードの 差額地代の 本質は 限界均等化 原理なりけり (経済学短歌)

◎ リカードの 差額地代は 限界の 生産力の 格差なりけり (経済学短歌)

◎ ジェボンズや ワルラス、メンガー 出る前に リカァードがいた 限界革命 (経済学短歌)

◎ 実践の 経済センス 磨くには 経済古典 読むと良きかな (経済学短歌)

by Kota Nakako

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