新・利他の経済学-3 The New Economics of Altruism

国際貿易  International Trade

自由貿易の利益 Benefit of free trade

利他の経済学の視点からも、自由貿易は世界全体の利益(総余剰)を高め、最大化させるため、自由貿易が望ましいと考えられます。経済学には数々の論争がありますが、自由貿易を擁護すべきという点については、経済学の立場からはほとんど異論がないと言って良いでしょう。

保護貿易は、自国の生産者(産業)を守るめに、消費者の利益(余剰)が犠牲にされます。一国の利益(総余剰)は自由貿易の場合よりも小さいものとなるというのが、経済学が教えるところです。というのは、一国の総余剰は、生産者余剰、消費者余剰、(および政府余剰)の合計だからです。

下図は、閉鎖経済(左図)と開放経済(右図)の総余剰を示したものです。開放経済の総余剰の方が、閉鎖経済の総余剰よりも△EdAEf だけ大きくなることを示しています。これが自由貿易の利益です。

 

     

◎ 一国の 総余剰こそ 貿易の 利益を得てぞ 拡大せしむ (経済学短歌)

Total surplus of a nation will be enhanced by the benefit of free trade. 

◎ 自由なる 貿易こそは 万国の 総余剰をば 拡大せしむ (経済学短歌)

It is the free trade that will enhance the total surplus of nations.

 

保護貿易政策は総余剰を減らす

自国産業の保護の手段としては、関税や(輸入)数量割当よりも、国内生産者に補助金を与えた場合の方が、総余剰の損失が少ないことが知られています。つまり、関税、数量割当の場合よりも消費者余剰が大きくなります。一定の生産量を維持するために、補助金が必要ですが、消費者が国際価格のメリットを享受できるからです。

自国産業の保護の手段としては、関税、(輸入)数量割当て、生産者補助金などがあります。この中で、関税と数量割当て(割当量=間税の場合の輸入量)の効果は同等です。関税と数量割当の同値命題をよばれます。消費者は国際価格よりも高い価格で購入することになります。

下図は、保護貿易政策により関税により国際価格を国内価格まで引き上げた場合の総余剰を示しています。これは上記の閉鎖経済の総余剰と同じになります。

関税の弊害

   

◎ 関税で 保護貿易の 弊害は 国全体の 余剰を減らす (経済学短歌)

The ill effect of protective trade policy is the reduction of total surplus of the economy, undermining the interest of consumers.

◎ 閉鎖的 貿易主義は 一国の 余剰減らすの 原則を知れ (経済学短歌)

Know that protective trade shall reduce the total surplus the nation in principle.

 

生産者保護としては生産者補助金の方が、関税よりベター

次に、国内生産者に国際価格Pwと国内価格Ptの差額を補助金として国内生産者に支給する場合の総余剰を見ます。総余剰は△EdAEfだけ大きくなっています。つまり、国内生産者への補助金によって商品価格が国際価格となることにより、△EdCEf 分の消費者余剰が、関税の場合よりも多くなります。保護貿易は自由貿易開放経済に比べ、いずれにしても総余剰は小さくなりますが、生産者保護としては補助金の方が、関税よりも消費者余剰が大きい分良いということになるわけです。

◎ 国内の 産業保護は 補助金が 関税よりも 弊害少(少な)し (経済学短歌)

Subsidies are less harmful to national welfare than tariffs, for domestic industry protection.

◎ 関税は 産業保護が 目的も 消費者余剰(利益) 損なうと知れ (経済学短歌)

Protective tariffs more undermine the consumer surplus/interest than benefit the domestic industry.

国内産業保護:関税か補助金か Tariff or subsidy

 

リカードの比較生産費説 (比較優位説)

天才経済学者リカードによる比較優位(比較生産費)の原理について触れたいと思います。この原理を初めて学んだときとてもミステリアスな原理であると感じたことを思い出します。何故ならこの原理の説明には消費者つまり需要サイドが出てこないからです。

リカードはイギリスとポルトガルのラシャ(毛織物の一種)とぶどう酒の各1単位を生産するために必要な労働量の数値例を出して次のように理論を展開します。イギリスはラシャ1単位つくるのに100人分の労働量、ぶどう酒1単位つくるのに120人分の労働量、ポルトガルはそれぞれ、90人分、80人分の労働量が必要です。絶対的な生産費の比較では、いずれもポルトガルの方が低くなっています。

しかし、相対的には、ポルトガルではぶどう酒の生産費がより低く、イギリスではラシャの生産費がより低くなっています。この場合、ポルトガルはぶどう酒の生産に特化し、イギリスはラシャの生産に特化し、相互に貿易を行った方が、それぞれが両方の財をともに自国内で生産するよりも有利でありという結論を導きだします。両国の労働生産性は最大化されます。

 

比較優位説の本質は機会費用(オポチュニティコスト)

比較優位説の本質は、機会費用(オポチュニティコスト)にあります。機会費用というのは明示的・絶対的コストではなく、暗示的(implicit)・相対的・本質的なコストです。上記の例では、ポルトガルがラシャ、ぶどう酒の生産に絶対的優位があります。しかし、ポルトガルにとっては、ぶどう酒の方がラシャよりも機会費用が小さい。つまり、労働をぶどう酒の生産に向けた方がより高い生産力を発揮できることになります。一方、イギリスにとっては、ラシャの方がぶどう酒より機会費用が小さい、したがって、労働をラシャ生産に向けた方がより高い生産力を発揮できる。生産可能性曲線の限界で生産し、自由貿易することで、需要をみたすことができる、ということになります。

 

比較生産費説の前提にあるセイの原理

やや脱線しますが、比較生産費説でリカードの比較優位の原理(比較生産費説)で暗黙の裡に前提にされているのは、「供給が需要を生む」というセイの原則です。セイの法則は完全雇用経済の下で成立します。したがって、リカードの比較生産費説においても需要サイドについては一切触れられていません。確かに、世界全体の労働生産性を最も高めるのは、それぞれが比較優位にある財の生産に特化した場合です。古典派経済学が基本的にサプライサイドの経済学である、ということの一つの表れです。「供給が需要を生む」わけですから、非自発的失業は生ずるわけはなく、完全雇用経済が達成されるわけです。

◎ リカードの 比較優位の 原則は 絶対劣位も 果す役割 (経済学短歌)

Ricardo’s comparative advantage teaches that the absolute disadvantaged have roles to play.

 

国際分業は、経済の相互依存を深め、世界平和に繋がる

以上のように、国際分業の場合も、財・サービスの価格が競争的に決定されているかどうか、国家間や、超国家的な機関によるチェックが必要でしょう。独占的利潤が生じている場合には、それをシグナルとして他国の企業の新規参入のインセンティブが高まるはずです。それが、利他の経済学の視点からも適切な行動です。

しかし、なお参入障壁が存在し、独占的な価格形成がなされている場合には、WTOのような超国家的機関による介入が必要になります。いずれにしても自由貿易、国際分業は、国家間の相互依存を深め、世界平和に繋がる道であることは間違いないでしょう。自国のみならず、相手国の利益を考えた経済合理的な行動が求められます。つまり、自国産業の利益の最大化ではなく、世界全体の利益の最大化を目的とした行動が、各国に求められるのです。

 

 

 

 

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