新・利他の経済学-7 The New Economics of Altruism

マクロ経済学 (ケインズ経済学)

ケインズ「一般理論」(“The General Theory of Employment, Interest and Money”, by John Maynard Keynes)

不完全雇用均衡が存在するマクロ経済モデルであるケインズ経済学についてみてゆきたいと思います。ジョン・メイナード・ケインズ(John Maynard Keynes)は、主著「雇用・利子および貨幣の一般理論」(“The General Theory of Employment, Interest and Money”)の中で、賃金が収縮的に調整する予定調和的な古典派経済学に対して、賃金に(下方)硬直性が存すること、貨幣の投機的需要(流動性選好)および投資の限界効率と利子率、限界消費性向という概念を用いて、貨幣市場と財市場の相互作用(同時均衡)を通して、有効需要により国民所得が決定する経済モデルを提示しました。

現実の経済を直視した理論・実践の書

かつては財政政策による有効需要の創出という面だけに着目してケインズ経済学をとらえるという誤った見方がありました。ケインズ経済学は、現実の経済を直視し、人間行動における特性、制度的な硬直性などを前提に、マクロ経済の不完全雇用均衡モデルを提示しました。ある意味では行動経済学の先駆ともいえる経済モデルをうちだしたともいえるでしょう。

人間行動の合理性を前提に、価格メカニズムが収縮的に作用し自動調節する古典派経済学の合理的なモデルに対して、生きた人間行動を前提にして経験的、現実的な経済学モデルを提示したのです。ケインズは、経済学者を主たる対象として「一般理論」を書きましたが、それは理論の書であると同時に、実践の学、実学としての経済学です。いかにしたら不況、デフレ経済から脱出できるか、いかにしたら人々をより豊かにすることができるか、という視点から書かれた「利他の経済学」であるともいえるでしょう。

今日の中央銀行による非伝統的な量的質的緩和政策をはじめ、マクロの金融・財政政策は、ケインズ経済学抜きでは語れないのです。

◎ ケインズの 一般理論は 至上なる 理論実践の 書とぞわれ覚(シ)る (経済学短歌)

◎ ケインズの 一般理論が 明示せし 不完全雇用 マクロ均衡 (経済学短歌)

◎ 古典派の 労働均衡 メカニズム 明示したのは ケインズと知れ (経済学短歌)

◎ ケインズの 秀逸なるは 明示せし 労働市場の 均衡法則(キンコーホーソク) (経済学短歌)

◎ ケインズの 一般理論は 現代の 行動経済学(コードーケーザイガク) 先駆の書なり (経済学短歌)

ケインズ経済学を理解するには、まず「一般理論」を読むことが重要です。ただし、通常の読者が一度で理解することは、わたしも含めてですが、おそらく難しいと思います。ただし、原典から「一般理論」を感じることは大切です。それが実践する際に「ひらめき」につながることがあるからです。

「一般理論」は、経済学者を対象として書かれたものであり、またケインズの経験的、論理的直観によって記述されているところもあり、その根底にあるモデルを明確に理解することは必ずしも容易ではありません。それをたすけてくれるのが、45度線分析とIS-LM分析です。

45度線分析

45度線分析は、利子率を所与とした財市場の均衡を扱ったものです。ケインズは、まずは古典派経済学が明示しなかった労働市場の需給均衡の条件を、労働需要と労働供給の面から明らかにします。古典派経済学がながらく暗黙のうちに前提にしていたものです。なぜ明示しなかったか、というとそれは賃金が収縮的にうごくため労働市場の需給均衡が当然のごとく成立するとしていたためです。ケインズは、非自発的失業がある不完全雇用均衡があることを経済学のまな板の上にのせるため、逆にこの暗黙の了解を明示的にする必要に迫られた、といえるでしょう。

45度線分析では、横軸にY(国民所得)をとり、縦軸にYS(供給または生産)、YD(需要または支出)をとります。45度線というのは2面等価Y=YS、これは供給サイドの恒等式としてY≡YS と表記することがあります。これは、ケインズが一般理論で述べた古典派経済学のセイの法則「供給が需要を生む」(“Supply creats of its own demand.”)という見方を表しているともいえます。これは原点から出発する右上がりの直線(45度線)になります。くりかえしになりますが、生産(供給)したものが国民所得になるということです。さらにいえば、古典派経済学では、Y≡Ys(=Yf)になります。Yfというのは完全雇用生産(供給)量です。価格メカニズムが収縮的に作用するため完全雇用均衡が成立するわけです。

ケインズ経済学は、完全雇用均衡はスペシャルケースとし、不完全雇用均衡を考慮しますので、Y=YS(=Yf) で国民所得は決定されません。では、何が決定するのかといえば有効需要Ydです。これが有効需要の原理です。つまり、Y=YS=YDです。Yは均衡国民所得Y*なので、Y*=YS*=YD*とあらわすこともあります。45度線分析では、利子率、物価水準は所与と考えます。後述しますが、利子率を考慮にいれたマクロ均衡を扱うのがIS-LM分析、さらに物価水準を考慮に入れたマクロ均衡を扱うのがAS-AD分析です。

◎ 財市場 45度線 分析は 需給所得の 三面等価 (経済学短歌)

◎ ケインズの マクロ分析 特徴は 有効需要(ユウコウジュヨー)が 所得を決める (経済学短歌)

◎ 不完全 雇用均衡 視野に入れ 有効需要が 所得を決める (経済学短歌)

◎ 45度 分析するとき 心せよ 物価と利子率 所与なりとしれ (経済学短歌)

◎ 45度 分析特徴 物価利子 所与とし求む 国民所得 (経済学短歌)

 

 

財政政策

45度線分析で財政政策の効果についてみてゆきましょう。45度線分析は財市場の分析なので、金利、物価については所与とします。

当初の状態を Y=C + I = Co + cY + I とします。 Coは基礎消費、小文字のcは限界消費性向です。消費を所得の関数として考えるわけです。ここでの均衡国民所得は三面等価 (YS = YD =Y)が成立するY* です。

ここで、財政政策として財政支出(投資)ΔGが行われたとします。有効需要はYD=C + I + ΔGに上方シフトします。均衡国民所得は三面等価の成立するY*’と、右にシフトし大きくなります。ここでY*’= Y* + ΔGとなります。 1/(1-c) >1 (∵ 1-c < 1) なので当然のことながらΔG > ΔG となります。この は財政乗数とよばれます。ケインズはこれを乗数効果(Multiplier Effect)と呼びました。

 

◎ 限界の 消費性向 高ければ 政府投資 効果大なり (経済学短歌)

◎ 乗数は 1 – c (イチヒクシイ)の 逆数で c(シイ)は限界 消費性向 (経済学短歌)

減税政策

定額減税(銀金給付)

減税政策について考えます。通常、財政政策というと財政支出ΔGが想起されますが、減税も広い意味での財政政策といえます。ここでは、まず定額(所得)減税ΔT(例えば定額現金給付)の効果を、国民所得Y = C + I = cY + Co + I (c: 限界消費性向、Co: 基礎消費) のモデルで考えます。同式をYについてまとめると、(1 – c)Y = Co + I となり、したがって、

Y = (Co + I)/(1 – c) 

ここで、定額(所得)減税ΔTが行われます。この場合の均衡国民所得をY’とし、Y’ = c(Y’ + ΔT) + Co + I とします。これをY’についてまとめる

Y’ = c / (1 – c) *ΔT + (Co + I) / (1 – c) = (cΔT + Co + I) / (1 – c)

∴ ΔY = Y’ – Y = c / (1 – c) * ΔT

したがって、ΔTの c / ( 1- c ) 倍の国民所得が増加することになります。限界消費性向c は、0 < c < 1 なので、

c / ( 1 – c) > 0 となります。

つまり、租税乗数は限界消費性向cが大きいほど大きくなります。

◎ 減税の 経済効果 決めるのは どれだけ消費に まわるかにあり (経済学短歌) 

◎ 減税の 経済効果 決めるのは 限界消費 性向にあり (経済学短歌)

均衡財政乗数 

先に、財政政策の効果についてみました。そこでは、政府支出ΔG(独立投資として考える)の財政乗数倍(= 1/(1 – c))の国民所得の増大がありました。ここで、ΔGを、同額の定額増税ΔTでまかなうケース(ΔG=ΔT)を考えます。

Y  = c (Y – ΔT) + I + ΔG 

(1-c)Y = – cΔT + I + ΔG = (1-c)ΔG + I ∵ΔG=ΔT

Y = 1/(1-c)*I + ΔG

つまり、国民所得は財政支出ΔG分だけ増える、均衡財政乗数は1になり、公債発行(ないし剰余金)による財政乗数1/(1-c)よりも小さくなるわけです。 

◎ 増税で 政府支出は 乗数の 効果を大きく 削ぐものと知れ (経済学短歌)

◎ 均衡の 財政主義では 乗数の 効果(コーカ)は大きく 削がれると知れ (経済学短歌)

開放経済の財政乗数

次に、開放経済下での財政政策の効果をみます。Y = C + I + EX – IM のシンプルなモデルで考えます。EXは輸出、IMは輸入です。ここで消費関数は C=cY + Co (c: 限界消費性向、Co: 基礎消費)、輸入IMは、国民所得Yの関数 IM=mY (m: 限界輸入性向)とします。

Y = C + I + EX – IM

   = Co + cY + I + EX – mY

これをYについてまとめると、

(1 – c + m)Y = Co + I + EX

したがって、

Y = I / (1 – c + m) * (Co + I + EX)

これが、財政政策前の均衡国民所得です。ここで、財政政策ΔGがとられたとします。

すると、Y’ = C + I + EX – IM + ΔG = Co + cY’ + I + EX – mY’ + ΔG

これをY’についてまとめると、

(1 – c + m) Y’ = Co + I + EX + ΔG

Y’ = 1/(1 + c + m)*(Co + I + EX + ΔG)

ΔY = Y’ – Y = 1/(1 – c + m) * ΔG

すなわち、開放経済下での財政乗数は 1/(1 – c + m) となり、閉鎖経済下での財政乗数1/(1 – c) よりも小さくなります。なぜなら、 1 – c + m > 1 – c、つまり分母が大きくなるためです。つまり、需要が外需に漏れるため、財政政策の効果は、その分小さくなる、ということです。

◎ 財政の 乗数効果 開放の 経済下では 減ずると知れ (経済学短歌)

◎ 開放の 経済下では 輸入への 漏れで乗数 下(ヘ)るもやむなし (経済学短歌)

 

by Kota Nakako

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