新・利他の経済学-8 The New Economics of Altruism

IS-LM分析

ISというのは財市場を扱ったもので、Iは投資、Sは貯蓄を意味します。マクロ経済学では、ISバランスというの概念がでてきますが、それは、利子率をバラメーターとして、I=Sとなるように財市場が均衡する、ということです。

LMというのは貨幣市場を扱ったもので、Lは流動性(liquidity)の略で貨幣需要をあらわします。Mは貨幣(Money)の略で貨幣供給をあらわします。LMというのは、利子率をパラメーターとして、貨幣市場の均衡のメカニズムをあつかったものです。

以上から、お気づきのように、IS、LMとも利子率をパラメーターとしていることです。IS-LM分析は、結果的には利子率をパラメーターとして、財市場(IS)と貨幣市場(LM)の同時均衡を導きだすモデルです。

ケインズの天才性は、古典派経済学では、貨幣数量説にたち、貨幣はマクロの生産量には中立(貨幣ヴェール観)であり、影響を与えないのに対して、貨幣供給および貨幣需要が利子率への作用をとおして生産量に影響を与えることを示したことにあります。また、貨幣需要には投機的需要(流動性選好)があり、資産選択に大きな影響を与えること、投資の限界効率が市場参加者の心理に大きく影響をうけること等、その革新性は多岐にわたります。IS-LM分析は、ケインズ「一般理論」のすべてではありませんが、その基本的なフレームワーク、モデルを示したものであり、ケインズ経済学の理解に欠かせないものといえるでしょう。

◎ 財市場 貨幣市場の 同時なる 均衡もとむ IS-LM(アイエスエルム)* (経済学短歌)

◎ 利子率が 国民所得 決定す 形に集約 IS-LM(アイエスエルム)* (経済学短歌)

  * 語呂として IS-LM => 「アイエスエルム」

◎ 財市場(IS) 貨幣市場(LM)の 4象限(ショーゲン) 分析通し 決まるよGDP(ジーディーピピー) (経済学短歌)

財市場 IS曲線

それでは、財市場の均衡をあらわすIS曲線を導き出すISモデルからみてゆきましょう。くりかえしになりますが、ISモデルは、マクロ経済学で最も重要な概念のひとつであるISバランス、投資貯蓄バランスをあらわすものです。利子率がパラメーターになります。IS曲線は4象限グラフをつかって導き出します。

◎ ISの バランスなるは マクロなる 財市場での 均衡条件 (経済学短歌)

◎ IS(アイエス)の I(アイ)は投資で S(エス)貯蓄 バランスしてぞ マクロ均衡 (経済学短歌)

◎ ISの 肝(キモ)はIS バランスで 投資は利子の 関数としれ (経済学短歌)

 

IS曲線の導出は次の4ステップからなります。まず第一に、投資は利子率の減少関数としてとらえることができるので、縦軸に説明変数である利子率rをとり、横軸(ここでは便宜上、左横軸)に被説明変数である投資をとると左下がりの曲線として描くことができます(第②象限)。

第二に、財市場の均衡条件であるISバランス(I=S)をあらわす45度線を第③象限に描きます。ISバランスは、Y=C+I というシンプルな有効需要モデルから導くことができます。貯蓄Sは、所得Yから消費Cを引いたものなので、S=Y-Cとなります。一方、Y=C+Iより、I=Y-Cです。つまり、I=Sです。

第三に、均衡国民所得Yは、貯蓄Sの関数としてとらえることができます。つまり、消費関数を、C=C0 +cY (c: 限界消費性向)というシンプルなモデルで考えると、S=(1-c)Y-C0 となります(第④象限)。

第四に、以上より、均衡国民所得Yは、利子率rの関数として導くことができ、これがIS曲線です(第①象限)。

ISバランス  IS Balance

ISバランスは、財市場の均衡条件として極めて重要であり、マクロ経済を見る、経済学的な見方をする上で鍵となる概念であるといってよいでしょう。

シンプルなモデルをベースにその基本をたたきこむことが大切です。経済学のモデルというのはいくらでも細かく、精緻化できます。しかし、実践に役立てるにはシンプルに考えることが重要です。その方が複雑多様な現実に対応して、行動に役立てることができるのです。理解のための理解ではなく行動のための理解です。

Y=C+I のモデルで考えます。このYで三面等価の均衡、Y = YS = YDが成立しています。貯蓄Sは定義により、所得から消費を引いたもの、すなわちS=Y-C です。そして、Y=C+Iより、I=Y-Cです。すなわちS=Iとなります。均衡国民所得においてはISバランスが成立しているのです。

均衡国民所得は、Y=C+Iのモデルから求めることもできます。また、同じことですが、横軸にY、縦軸に投資I、貯蓄Sとした、I=Sのモデルからも求めることができます。ここでは投資Iは独立投資としてシンプルに考えます。貯蓄SはS=Y-C、消費関数をC=Co + cY (Co: 基礎消費、c: 限界消費性向)とします。すると、S=Y-(Co + cY)=(1-c)Y – Co となります。ISバランスより、I=(1-c)Y-Coを成立させるY*で均衡が成立しています(下図)。

◎ ISの バランスこそは マクロなる 経済を見る 要(カナメ)なりけり (経済学短歌)

◎ 投資貯蓄(トーシチョチク) バランスこそは マクロなる 経済を見る 要(カナメ)なりけり (経済学短歌)

さらに、開放経済におけるISバランスは、投資に純輸出を加えたもの、つまり、S=I + NEX となります。

◎ 開放の ISバランス 貯蓄とは 投資(トーシ)に加えて 純なる輸出 (経済学短歌)

このことから、経常収支を単純化して、純輸出として考えると、NEX = S – I となります。つまり、経常収支の黒字は、財市場の需給均衡条件から、国内の貯蓄超過をあらわしている、ととらえることができるのです。

◎ 経常の 収支の黒字 意味するは ISバランス 貯蓄の超過 (経済学短歌)

 

貯蓄のパラドックス

ここで、貯蓄のパラドックスについて考えたいと思います。貯蓄のパラドックスとは、すべての人が貯蓄を増やそうとする、これを限界貯蓄性向s の上昇としてとらえると、他を一定とすると、マクロとしての貯蓄は増えないことをあらわしています。そして、より重要なことは、IS曲線の左シフトにより、均衡国民所得が減少してします、つまり不況が深刻化する、ということです。

◎ 皆共に 貯蓄増やすと 思えども マクロの貯蓄 増えぬ逆説 (経済学短歌)

◎ 皆共に 貯蓄増やすと 思えども 増えぬは貯蓄の パラドクスかな (経済学短歌)

◎ 不完全 雇用経済 マクロでは 貯めようとしても 貯蓄は増えず (経済学短歌)

◎ 有効な 需要不足す 経済は 貯めようとせば 不況深まる (経済学短歌)

LM曲線 LM Curve

次に、貨幣市場の均衡をあらわすLM曲線を導き出す、LMモデルを見てゆきましょう。LM曲線の導出も、4象限座標を用います。

ケインズ経済学の貨幣理論の特徴は、貨幣需要に取引需要と投機的需要の2つがあることです。貨幣需要に投機的需要をあることを明示し、経済学モデルに取り入れたのはケインズの天才といってもよいでしょう。そして、それはケインズが投資家であったこと、その経験から生まれたものであったとも言えます。古典派の貨幣数量説では、貨幣需要に投機的需要という概念はありませんでした。

LM曲線の導出は4つのステップをふみます。第一に、投機的需要は利子率の関数であるということ。そして利子率rが下落するほど、投資的需要は増大すると考えられます。逆に利子率r が上昇すると投機的需要は減少します。それを示したのが第②象限です。

第二に、貨幣の需給均衡式です。貨幣供給Mは中央銀行がコントロールすることができると考えます。実質貨幣供給は、名目貨幣供給Mを物価水準Pでわったものと考えることができます。つまり、M/Pです。一方、ケインズ経済学における貨幣需要L は、取引需要Li と投機的需要Lii からなります。つまり、L=Li + Lii です。したがって、貨幣市場の需給均衡は、M/P = L = Li + Lii とあらわすことができます。これを示したのが第③象限です。縦軸に取引需要Li、横軸に投機的需要Lii をとります。貨幣市場における需給均衡の軌跡は、原点に向かって閉じた、縦軸切片、横軸切片が等しい(=L)直線として描くことができます。

第三に、貨幣の取引需要Li は、国民所得Yの増加関数としてあらわすことができます。つまり、Li = L(Y) です(第④象限)。

最後に、国民所得Yと利子率r を説明変数とする貨幣市場の需給均衡の軌跡であるLM曲線を第①象限に描くことができます。

◎ 貨幣への 需要は二つ あると知れ 取引需要(ジュヨー)に 投機的需要(ジュヨー) (経済学短歌)

◎ LMの 肝(キモ)は貨幣の 投機的 需要は利子の 関数なりと (経済学短歌)

財市場と貨幣市場の同時均衡

IS曲線、LM曲線をもとめたので、IS-LM分析のめざすところの財市場と貨幣市場の同時均衡を導き出したいと思います。実は、このプロセスはシンプルです。

横軸に国民所得Y、縦軸に利子率r をとり、上記でもとめたIS曲線、LM曲線を描きます。ISモデル、LMモデルにおいて、各々第①象限は、国民所得Yを横軸、利子率rを縦軸にとっていました。つまり、IS-LMモデルは、ISモデル、LMモデルの第①象限を取り出し重ね合わせたものです。そして、IS曲線とLM曲線の交点で、均衡国民所得Y*、均衡利子率r* が決定されます。これが、財市場、貨幣市場の同時均衡の意味です。

IS曲線は、財市場を均衡させる国民所得Yと利子率rの軌跡。LM曲線は、貨幣市場を均衡させる国民所得Yと利子率rの軌跡です。くりかえしになりますが、(Y*、r*)で財市場、貨幣市場が同時に均衡します。古典派経済学では、完全雇用経済におけるISバランスで利子率が決定されます。これがいわゆる「自然利子率」です。単純化していえば、古典派経済学では、完全雇用経済以外はすべて不均衡であり、賃金、利子率、財の価格がすべて収縮的に動き、完全雇用経済が達成されるというものです。言い換えれば、完全雇用均衡において当然ISバランスは達成されており、そこで決定される利子率が自然利子率です。

このようにケインズ経済学における、均衡国民所得には不完全雇用均衡が含まれており、利子率は財市場と貨幣市場の動的な関係によって決定されます。それを単純化、モデル化したものがIS-LM分析です。現実の経済にもとづく動的、ダイナミックなモデルであるといえます。

 

By Kota Nakako

2021/11/21

 

 

にほんブログ村 本ブログ 詩集・歌集・句集へ   にほんブログ村 本ブログ 古典文学へ   にほんブログ村 本ブログへ