ケインズの投資活動 ー 分野別にみる
ケインズの投資活動を、分野別(所得源泉別)に明らかにしたTable4(CWJMK-XII, ‘Keynes as an investor’)に従ってみてみよう。
なお、わかりやすさのため、Currency converter: 1270–2017; nationalarchives.gov.uk に基づき、ポンドの現在価値(2017年時点)に換算し、さらに2017年の平均ポンド円換算レート(145円)により円換算(2017時点)して、文中適宜示す(#)ことにする。
当初は為替の投資(投機)で大きな損失
1920年は、配当所得£815を得たのに対して、証券投資(£)で£602の損失、為替で£10,632(#4,480万円)の大きな損失を被った(ネットで£10,418の損失)。ケインズの実質的な投資家としてのスタートは必ずしも順調ではなかった。しかし、ケインズはこれにめげることはなかった。
1921年は、一転、為替で£9,677、商品で£2,155、計£11,832(#4,885万円)の利益を上げ前年の損失を上回る利益を出す。証券投資では、配当£885に対して、売却損£1,638を計上、全体で£753の損失となり、証券投資では成果は上げているとは言えない。
1922年も、為替で£3,335、商品で£6,729の利益を上げるが、証券投資全体で£834の損失(配当£346、売却損£1,180)を被った。証券投資ではなお成果を上げ得ていない。
23、24年は商品への投資(投機)で荒稼ぎ
1923年は、為替で£4,946、商品で£13,702(#5,773万円)の利益を計上。特に商品で荒稼ぎ。証券投資は£4,272(配当£654、売却益£3,618)となり、なお、為替、特に商品の成果が高い。証券投資の成績が改善を示す。また、この年、まだ少ないが、初めてドル証券で$594の売却益を得る。
1924年以降、配当所得が安定基盤となる
1924年は、為替で£4,817、商品で£15,247(#6,424万円)の利益を上げ、前年に続き商品で荒稼ぎ。対して証券投資は配当£1,581、売却益£1,038の計£2,619を計上。その他£713。依然として為替、商品の投資(投機)が中心。
1925年は、為替で£335の損失、商品で£5,627(#3,359万円)の損失を計上。為替・商品で1920年以来の通年での損失を計上する。その他投資(投機)で£2,298の損失。一方、証券投資では、売却損£356被るも、配当£2,649、$250を得る。配当が相応の規模の安定した所得の基盤となる萌芽がみられる。
1926年は、為替で£419、商品で£6,570と利益を上げる。証券投資では売却損£3,333を被る。配当所得は£1,804、$400。
1927年は、為替で£188、商品で£10,525(#6,266万円)の利益を上げる。商品で荒稼ぎ。証券投資では、売却益£850、配当£2,119、$500を計上。配当が相応の規模の安定した所得基盤となりつつある。
28年は商品相場で大きな損失、証券投資の比重が高まっていく
1928年は、商品で£23,267(#1億3,852万円)とかなりの大きな損失を被る。この年から1932年まで為替の損益は記録されていない。一方、証券投資では、売却益£4,352、$3,250、配当所得£2,791、$100と、商品の損失はカバーできないものの和らげる役割を果たした。
1929年は、商品で£70の若干の損失を計上。証券投資では、配当所得£1,517、売却益£3,440を計上。この年の10月24日ニューヨーク株式市場の大暴落、世界恐慌へ突入するが、投資所得の面では悪い年ではなかった。
1930年は、商品で£3,009の損失を被る。証券投資では、配当所得£2,190、売却損£973を計上。配当が商品の損失を和らげる。
1931年は、商品で£1,550の利益を上げる。証券投資では、配当所得£2,470、売却益£1,583の計£4,053を上げる。おおむね好調な年であったと言える。
1932年は、商品で£404の利益を上げる。証券売却損£4,044、同$443を計上、配当所得は£1,078。厳しい年となったと言える。
1933年は、為替で£83、商品で£2,364の利益を計上。証券投資では、配当所得£1,805、売却益£33、$11,142(≒£2,237)を上げる。米証券投資で稼ぐ。
1934年以降、英国株式に加え、米国株式への投資本格化
1934年は、為替で£466の損失、商品で£8,820の利益を上げる。証券投資では、配当所得£3,056、$8,251(≒£1,656)を計上、売買損益は、売却益£20,559(#1億3,650万円)、売却損$799となった。配当所得の規模が大きくなり、特に証券売却益で大きな利益を上げた年となった。
1935年は、為替、商品は不調で、それぞれ£2,092、£4,304の損失を計上。一方、証券投資は好調で、売却益は、ポンド証券で£22,404(#1億6,457万円)、ドル証券で$5,600(≒£1,124)(#826万円)と大きな利益を上げる。配当所得も£6,191、$11,039(≒£2,216)とかなりの規模となる。
36年「一般理論」出版、37年は証券投資で生涯最高の稼ぎ; 37-39為替・商品苦戦
1936年(この年「一般理論」出版)は、為替・商品、証券投資共に好調で、為替で£12,362、商品で£36,009(#2億6,451万円)の利益を計上。証券投資は、ポンド証券で£30,169(#2億2,161万円)、ドル証券で$92,432(≒£18,560)(#1億3,633万円)の売却益を上げる。配当所得も£11,795、$19,219(≒£3,859)に及んだ。
1937年は、証券投資所得(配当も含む)で、ケインズの生涯で最高の年となった。この年以降、ケインズの投資活動は、証券投資が中心となった。ポンド証券売却益£54,884(#4億316万円)、ドル証券売却益$234,097(≒£47,006)(#3億4,529万円)を計上、配当所得は£17,353(#1億2,746万円)、$37,884(≒£7,607)(#5,587万円)と生涯最高に達した。但し、その他投資(投機)(オプション、stags他)で、£2,299の損失を計上している。なお、この年ケインズは心臓発作を患った)。
1938年は、かんばしい年ではなかった。為替、商品でそれぞれ£1,844、£3,612の損失を計上する一方、証券投資でも、ポンド証券売却損£18,572、ドル証券売却損$140,819(≒£28,276)を計上した。配当所得は£5,961、$13,997(≒£2,810)となり、損失を和らげた。
1939年は、為替、商品でそれぞれ£1,668、£3,138の損失を計上。証券投資では、ポンド証券で£3,548の売却損を計上するも、ドル証券は$30,900(≒£6,204)の売却益を出した。配当所得は、£3,209、$5,555(≒£1,115)となり安定基盤としての役割りを示した。
40年以降、証券投資にフォーカス 配当所得の比重高まる
1940年、証券投資は、売却益£1,005、$3,517(≒£888)、配当所得£8,189、$8,241(≒£2,080)を上げた。為替、商品への投資(投機)はこの年以降行われていない。
1941年は、ポンド証券売却損£58、ドル証券売却損$62,923(≒£15,888)を被った。配当所得は、£12,729、$1,527(≒£385)となった。
1942年は、ポンド証券売却益£11,432を計上。配当所得は、£11,075、$1,112(≒£280)となった。
1943年は、ポンド証券売却益£7,925、ドル証券売却益$12,183(≒£3,076)を計上。配当所得は、£8,657、$879(≒£221)となった。
1944年は、ポンド証券売却損£838。配当所得£11,402、$548(≒£138)を計上。
1945年は、ポンド証券売却益£9,052、ドル証券売却益$56,766(≒£14,333)を上げた。配当所得は、£5,156、$2,277(≒£547)となった。
ケインズは、翌1946年に心臓発作で倒れ、サセックス州ファールで4月21日に逝去した。

次回は、累積の所得額(源泉別)をおおまかにつかむために、Currency converter: 1270–2017; nationalarchives.gov.uk に基づき、ポンドの現在価値(2017年時点)に換算し、さらに2017年の平均ポンド円換算レート(145円)により円換算(2017時点)して示すことにする。
By Kota Nakako
2023/04/25