ライバル-2 – a short story

寺本がなぜ、出門をライバル視するのか。それは、お互いに自分にないものを相手に見出していたからだろう。ある意味では、お互いに相手をリスペクト(尊敬)していたのかもしれない。負けたくない、という気持ちであらわれるとしても。分野はちがってもそれぞれに得意分野があった。寺本は、大学時代に、Jリーグの前身にあたる読浜クラブで、セミプロとしてサッカーの選手をしていた。寺本が、Speed社に入ったのは、サッカーではめしは食っていけないからだ、と言っていた。自分でそう判断したのか、クラブの評価がそうだったのか。恐らくは両方だろう。出門は、大学の成績はひどかったが、英語だけは勉強しており、国内では最高レベルのライセンスを取得していた。経済学部は、数学や統計学が必修であるが、その成績も勉強しないわりには悪くはなかった。ふたりはタイプが違う。正反対だ。

寺本は入社早々、営業部に配属された。それはスポーツマンの彼には相応しかった。出門も技術系ではないということで営業を希望していた。しかし、希望は通らずコンピューター部門にまわされた。最初の半年間は夜勤のある運用部。その後、開発部に異動になった。志村社長は、「これからの時代コンピューターを知ることが重要だ。まず、コンピューターを学べ」といっていた。それはそうだろう。理屈ではわかる。しかし、なぜか敗北感を味わった。今考えると出門は自分を知らない愚か者だ。本当は志村社長に感謝しなければならないのだ。人間は目先のことにとらわれる。わかっているようでわかっていない。だからこそ逆境はチャンスだ。これは後になって出門が知ることになる。

出門には、忘れられない屈辱的な思い出がある。入社はじめての会社のゴルフ・コンペだ。出門は、恥ずかしいスコアは出せないと2,3ヶ月ほど前から毎週、ゴルフの打ちっぱなしの練習場に通った。コーチにも2,3度ついた。コンペの成績はというと、出門は150を超える数えきれないほどのスコアだった。一方、寺本は、はじめてのコースといっていたが、なんとやすやすと100を切ったのだ。そのプレーぶりは、いわゆるスポーツマンから想像されるパワープレーではなく、繊細なものだった。枯れた感じの球筋で、しかし、きちんとグリーンに乗せてきた。豪快にスイングし、飛距離を出し、パワープレーで負けるなら良い。しかし、そうではなかった。ゆえに出門には屈辱だった。

続く

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