アイロニーの研究 (3)

アイロニーの一般概念 キルケゴールによる

たえずソクラテスを省みつつ

アイロニーは、キルケゴールによってより詳細に解明された。彼の学位論文『アイロニーの概念について』は、「たえずソクラテスを省みつつ」という副題がついている。キルケゴールは、ソクラテスの本質がアイロニーであり、世界史的にみてアイロニーがソクラテスによって登場したとする。ソクラテスのアイロニーの本質が主体性であること、さらにその主体性は否定性によって裏付けられていることを明らかにした。

主体性

この点にキルケゴールの洞察の特質と鋭さがある。そして、キルケゴールが「アイロニーの概念」をテーマとした学位論文で、学者、著作者としての出発をしたということは極めて興味深い。このことは、キルケゴールが、「主体性」を自らの思想の中心としてとらえたことを意味している。

ロマン主義とリアリズム

『アイロニーの概念について』は、1841年に提出されている。19世紀のこの時期に、この論文を書いていることは極めて象徴的なことであるように思われる。ここで、キルケゴールは、ロマン主義的アイロニーを否定して、ソクラテス的アイロニーの意義を述べているが、その視点は、リアリズムの重視であるといってよい。1841年と言えば、ロマン主義が衰退し、リアリズムが登場してくる時期である。

キルケゴールとボードレール

キルケゴールは、新しい形式のアイロニーを見出そうとしていたともいえる。その意味では、後述するボードレールに共通するところがある。ボードレールは、キルケゴールとほぼ同時代に生きた詩人であり、近代のアイロニーの特徴が、批判性の獲得であり、その生活様式がダンディズムであるとする。

都市生活者

キルケゴールは、1813年、デンマークのコペンハーゲンで生まれ、1855年、同じくコペンハーゲンで死んだ。ボードレールは、1821年パリに生まれ、1867年パリで死んでいる。両者とも都市生活者であった。

中湖 康太
11/5/2019

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