日銀のバランスシートについての試験的考察(1) A short analysis on BOJ’s balance sheet (1)

日銀のバランスシートについての試験的考察(1) A short analysis on BOJ’s balance sheet (1)

(English summary down below.)

市場の鍵をにぎる日銀の金融政策

日銀の金融政策に注目が集まっている。証券アナリスト、投資家の視点から、日銀のバランスシートについて試験的な分析、考察を行いたい。それが現在の金融資産運用を行う上で、極めて重要なポイントであると感じるからである。

出口のない金融緩和? 矛盾した政策運営

また、欧米金融当局が、超金融緩和から正常化、インフレ抑制の金利引き上げに転じるなかで、日銀のみが依然、マイナス金利、若干の柔軟化したとはいえ、YCCを続けているからだ。

最近の円安は主として内外金利差によるであるにも関わらず、(口先を含む)為替介入による円安抑制策にでている。物価上昇2%を政策目標にしているにも関わらず、一方で、政府は、ガソリン価格を含む物価対策を打ち出している。近時は、インフレ目標2%に加えて、「賃金の上昇を伴う」という条件を付加して、マイナス金利維持、YCC継続をしている。極めて矛盾した政策運営であるように見える。

金融政策を制約する日銀のバランスシート

日銀は、中央銀行としてのあるべき金融政策だけでなく、自己のバランスシートの問題を抱えている、ないしそのバランスシートのあり方が、金融政策に影響を与え、規定しているのではないか。そこに手がかりをうることが、投資運用上に極めて重要な意味をもつ。本試験的分析はそのような問題意識にもとづいている。

日銀の2023年3月期の総資産は735兆円(以下、記載なければ兆円未満切り捨て)、そのうち国債が581兆円と79.0%に相当する。QQEによるリスク資産保有として、金銭の信託(信託財産指数連動型上場投資信託)37兆円、金銭信託(信託財産不動産投資信託; J-REIT)が6,665億円ある。

大量の長期国債保有

問題は、この大量の国債の内容だ。いうまでもなくYCCにより、日銀は大量の長期国債576兆円を保有することになった。国債581兆円の内訳は、短期債5兆円(0.9%)、2年債34兆円(5.9%)、5年債96兆円(16.6%)、10年債269兆円(46.3%)、20年債119兆円(20.6%)、30年債42兆円(7.3%)、40年債8兆円(1.5%)、物価連動債5兆円(0.9%)。10年債以上が443兆円と8割近く(76.6%)を占めている。

日銀当座預金

この大量の国債保有の主な資金的裏付け、調達・負債サイドは当座預金549兆円である。負債・純資産サイドの主なものは、日銀券121兆円、政府預金15兆円、純資産5兆円など。当座預金はいうまでもなく短期の資金(負債)である。つまり、長期国債のファイナンスをおおむね短期の当座預金でおこなっていることになる。

ALM(資産・負債管理)上の問題点

これはALM(資産負債管理)上、2つの大きな問題である。ひとつはデュレーションリスクであり、長期金利が上昇すると、国債価値が下落するので、日銀は多額の損失を被ることになる。第二は、当座預金(負債)について、現在はマイナス金利であるため、資金流入があるが、マイナス金利解除、短期金利が上昇すると、資金流出(金利負担)が発生し、日銀の経常収益が大幅に悪化する可能性があることだ。

これは、事業体としてみた場合、極めて大きな財務上の問題を抱えているといってよい。これは通常の企業経営は勿論、金融機関経営としては、ALM上ほとんどありえないほどリスキーな姿であるといってよい。中央銀行は通貨を発行できるので、おそらく形式的には、倒産リスクはないといってよいのかもしれない。この辺のところは筆者の測り知れないところである。

日銀政府子会社論の根拠

参考までに、日銀の損益計算書(P/L)をみると、2023年3月期は、3.2兆円の経常利益、2.1兆円の当期剰余金(当期純利益)を計上している。この剰余金のほとんど(約2.0兆円)が、国庫納付金として国に納められている。ちなみに国債保有の金利収入は約1.3兆円ほど。日銀の政府子会社論の根拠がここにある。

つまり、政府が大量に国債を発行して、それを日銀が保有しても、その支払い金利は結局は国に戻ってくる。現在のところ、国債発行は一度、市中消化された国債をYCCの下に、日銀が買い取っている。その買取の原資(資金調達)となっているのが先に見た市中銀行による日銀当座預金だ。通常なら金利負担の発生する当座預金のコストをキャッシュインとするのがマイナス金利政策だ。

YCCとマイナス金利解除に後ろ向きなもう一つの理由

YCCとマイナス金利政策は、政府が大量の国債を発行しつづけ、それを日銀が保有しても、日銀が剰余金を発生させ、経営体を維持していけるスキームであるという見方も可能であろう。しかし、これには、ひとつ条件があるといってよい。それは、長短ともに低金利が維持されること、である。このスキームの最大のリスクは、先に見たように、長短金利の上昇だ。つまり、リスクは経営体としての日銀にある、といってよいかもしれない。

日銀がマイナス金利解除に後ろ向きにみえるのは、金融政策のゆえであるだろうが、その背後に、日銀の経営上の事情もあるのではないか、と推定される。

次回は、比較のために、米国FRBのバランスシートを見てみたい。

Summary in English

Alert to BOJ’s monetary policy

The market is interested in BOJ’s next move in monetary policy; i.e., when and how BOJ will or can exit the YCC and negative interest rate policy (NIRP), or if it will be possible after all. Why BOJ seems to be reluctant to exit YCC and NIRP? 

Contradiction – Exit strategy without exit?

BOJ continues to maintain YCC and NIRP, by revising, it appears, the 2% inflation rate target to that wage hike inclusive, while the government is trying to subdue general price increases caused by the rise in commodity prices including oil and weak yen. It looks a contradiction.

BOJ’s balance sheet is a key

It is very important to review BOJ’s balance sheet of total assets of Y735 (US$4.9) trillion.  As of end March 2023, BOJ holds Y581 (US$3.9) tr. of JGB, out of which Y576 ($3.8) tr. is long-term, mostly more than 10 years, and Y5.5 ($0.036) tr. short-term. Indeed, JGB accounts for nearly 80% of its balance sheet, and most of it is long-term.  

Massive JGB holdings backed by the current deposits – Problematic from ALM

The huge JGB holding by BOJ is basically backed by the current deposits by mostly commercia banks amounting to Y549 ($3.7) tr. in the liabilities side.

From the view point of ALM (Assets and Liabilities Management), this is a big problem in two ways. One is BOJ should suffer significant losses in the balance sheet if interest rate, in particular long-term, rises. The other is BOJ will become unprofitable should short-term interest rates rise as it has to pay interest on the current deposits; (Under NIRP, it has earned interest, on the contrary).

BOJ’s as Japanese government subsidiary theory

If we look at BOJ’s P/L for the end of March 2023, it earned net income of Y2.1 tr. (US$14.0 billion), with the interest received of Y1.3 tr. ($8.7 billion) on its JGB holdings. Most of the net income goes to the Japanese government as the payment to national treasury. This is where the theory of BOJ as the Japanese government subsidiary is advocated by the exponent.

YCC and NIRP as the scheme to maintain the current regime

After all, YCC and NIRP is the scheme where both authorities, political and monetary, can sustain the current state of affairs where large amount of JGBs can be absorbed by BOJ.

BOJ’s reluctance to exit YCC and NIRP is perhaps not only caused by pure monetary policy reason but also dictated by its own balance sheet.

Next, I would like to look at FRB’s balance sheet for comparison.  

By Kota Nakako

2023/10/23

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