ライバル-3 a short story

Speed社のグローバル戦略のもと、寺本と出門はロンドンに勤務することになった。同期入社のふたりが同時におなじ海外の勤務地、しかも同じ営業部(Sales and Marketing)に配属されるのは珍しい。会社は二人を競わせようとしているのか。それとも二人の背景にある派閥が関係しているのか。

企業組織というのはある意味でどうしようもないものだ。社内ポリティックスが、業績向上より優先されることがある。Speed社には、大きく分けて3つの派閥があった。一つは、大株主の亜細亜経済新聞社、一つは、元財務省・投資局長志村貴一郎会長、もう一つは、Speed社中途入社で数字をあげて社内でのしあがったた現場のたたき上げ組だ。どうやら寺本のロンドン人事は第三の現場の強い支持を得たもののようだ。出門のロンドン異動には、数年前にSpeed社の社長に就任した小山章一の強い意向があった。小山章一は亜細亜経済新聞の元社長候補で、国際派として知られていた。小山の社長就任に伴って志村は会長職に就いた。志村は小山の意向を支持した。

寺本と出門は共にロンドンに赴任した。家族が来るまでの3か月間、二人はロンドンの中心部にある高級住宅地チェルシーのケンジントン・クロイスターで暮らした。Speed社のロンドン支社は、当初、テムズ川沿い、地下鉄ディストリクト・ラインのブラックフライアーズ駅近くにあった。

寺本と出門は、朝、ディストリクト・ラインのサウス・ケンジントン駅から二人で地下鉄に乗り、ロンドン支社に初出勤した。この時、出門は不思議な感覚を味わった。寺本は、出門を同士と考えていたのだろうか。これから二人はロンドンで、Speed社の国際戦略の先兵として、共に力を出し尽くすのだ。出門はそのつもりだ。寺本もそうだろう。しかし、二人は同士であると同時に、ライバルでもあった。これからはそのような私情は捨てなくてはならない。出門はベストを尽くすことを誓った。寺本はどう考えているのだろう。恐らく同じだろう。この複雑な感情は二人でなくてはわからない。いや、世の中の多くのライバル同士の意識というのはこんなものなのかもしれない。しかし、出門は、寺本のスポーツマンらしからぬ、というのは間違っているかもしれないが、その繊細さにに戸惑った。寺本がシンプルにパワープレーヤーだったら二人の力はより発揮できたのではないだろうか。ふとそのように感じた。それは、寺本に対する出門の期待なのか、それとも逃げなのだろうか。

続く

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